糸がゆっくり溶けることと、引き上げの効果が長く残ることは、同じではありません[1]。PCL(ポリカプロラクトン)の糸はPDOの糸より吸収に時間がかかると報告されていますが、顔で効果が見えている期間は素材と部位でおよそ6〜12か月だと、大規模な集計は書いています[2][1]。糸そのものの性質と、顔で起きる変化を分けて考えるのが、この施術を理解する近道です。
PCLの糸は、ほかの糸と何が違う?
いちばんの違いは、溶けるまでの時間と柔らかさです。PCLはPDOやPLLAの糸と比べて柔軟性が高く、分解がゆるやかで、吸収までおよそ12〜18か月かかると報告されています[2]。同じ報告では、患者さんの不快感がPDOやPLLAより少ないことも挙げられています[2]。ただしこの報告は骨盤の臓器を支える目的で作られたコグ糸の研究で、顔のリフトを直接調べたものではありません[2]。
顔の糸リフトでは、2000年以降にPDO、PLLA、PCLといった溶ける素材の糸が主流になりました[1]。溶ける素材は異物としての反応が少なく、分解の過程でコラーゲンが作られるのを促すと説明されています[1]。
糸が残っている間は、効果も残る?
そうとは限りません。2020年から2024年の111,948件を集めた日本の集計では、リフト効果の持ちは素材と部位によっておよそ6〜12か月で、PDOの糸は6〜8か月で分解し、PCLの糸はやや長く12か月ほど残るとまとめられています[1]。
研究者自身も、糸の持ちと効果の持ちの差に注意を促しています。3次元のコグ糸を調べた前向き研究の考察では、宣伝では12〜18か月の持続がうたわれることが多いものの、査読を受けたデータはそれほど一貫していないと書かれています[3]。同じ考察で引かれた過去の報告では、たるみの戻りが6か月以内に半数で見られ、8週という早い時期に戻った例も14%ありました[3]。
糸が溶けたあとに引き上げが続くかどうかも、まだ確かめられていません。溶ける糸の使い方をまとめた専門家の合意文書は、糸が消えたあとの持続については、さらに深い研究が必要だと明記しています[4]。
「痛みが少ない」は、どこまで言える?
素材の柔らかさから期待される話で、顔での比較データは限られています。PCLの糸で不快感が少ないと報告したのは、顔ではなく骨盤の支持を目的とした糸の研究です[2]。顔については、溶ける糸が溶けない糸に比べて、しびれや糸の露出のリスクを大きく減らしたという記載があります[5]。
合併症の起きにくさは、素材だけでなく年齢とも関係します。溶ける糸を使うこと、そして患者さんが若いことは、合併症のリスクが低いことと関連していたと、糸の素材をまとめたレビューが述べています[6]。
コラーゲンを増やす、という話の根拠は?
いまのところ、根拠の中心は動物実験です。紫外線で老化させたラットにPDO、PLLA、PCLの糸を入れて比べた研究では、PCLの糸が真皮のコラーゲン密度をもっとも若い状態に近づけました[7]。マウスで新しいPCLの糸を市販の糸と比べた研究でも、PCLはPDOやPLLAより長い期間コラーゲンを作らせると述べられています[8]。
ただし、どちらの研究も人の顔で確かめたものではありません。ラットの研究の著者も、糸が吸収されてから組織が作り替わるまでの長期の影響は、さらに研究が必要だと書いています[7]。
できることと、できないこと
できるのは、軽いたるみを一時的に引き上げることです。日本美容外科学会のガイドラインは、顔のしわ・たるみへの糸リフトについて、一時的な改善は期待できるが効果は大きくなく持続も短いため十分な説明が必要だとして、推奨度2(弱く推奨)にしています[9]。
溶ける糸のリフトを2018年10月から2022年12月までの文献で調べた系統的レビューも、これまでの研究は長期の有効性を示せていないと結論しています[10]。PCLの糸も、この評価の外にいるわけではありません[10]。
診察で確認したいこと
確かめたいのは、糸の素材と吸収期間の根拠、そして自分の顔で見込む効果の期間です。「溶けるまで何か月」と「引き上がって見えるのは何か月」を、分けて聞いてみてください。
たるみの程度や皮膚の厚みによって、糸で届く範囲は変わります。どこまでを糸で、どこからは別の方法で考えるのかは、診察で顔を見てもらったうえで医師と決めることになります。
- 1Tamura T, Okumura K, Funakoshi Y, Teranishi H. Multicenter Review of More Than 110,000 Facial Thread Lifting Cases From a Cosmetic Surgery Group. Plastic and Reconstructive Surgery Global Open. 2025. doi:10.1097/GOX.0000000000007335
- 2Silva AT, Ferreira NM, Bastos HL, Vaz MF, Martins JP, Pinheiro F, Fernandes AA, Silva E. Development and Simulation-Based Validation of Biodegradable 3D-Printed Cog Threads for Pelvic Organ Prolapse Repair. Materials. 2025. doi:10.3390/ma18153638
- 3Park BY. Prospective Study of Three-Dimensional Bi-directional Barbed Threads for Midface and Nasolabial Fold Rejuvenation. Aesthetic Plastic Surgery. 2026. doi:10.1007/s00266-025-05327-4
- 4Fundaro SP, Goh CL, Hau KC, Moon H, Lao PP, Salti G. Expert Consensus on Soft-tissue Repositioning Using Absorbable Barbed Suspension Double-needle Threads in Asian and Caucasian Patients. Journal of Cutaneous and Aesthetic Surgery. 2021. doi:10.4103/JCAS.JCAS_138_19
- 5Burko P, Sulamanidze G, Nikishin D. Efficacy of Lifting Threads Composed of Poly(L-Lactide-Co-ε-Caprolactone) Copolymers Coated With Hyaluronic Acid: A Long-Term Study on Biorevitalizing Properties in Skin Remodeling. Journal of Cosmetic Dermatology. 2025. doi:10.1111/jocd.70077
- 6Hong GW, Kim SB, Park SY, Wan J, Yi KH. Thread Lifting Materials: A Review of Its Difference in Terms of Technical and Mechanical Perspective. Clinical, Cosmetic and Investigational Dermatology. 2024. doi:10.2147/CCID.S457352
- 7Soen M, Hidayat M, Widowati W. Enhancing dermal collagen density towards youthfulness: A comparative study of PCL, PLLA, and PDO thread implantation in aging rats model. Iranian Journal of Basic Medical Sciences. 2025. doi:10.22038/ijbms.2024.80494.17428
- 8Cho SW, Shin BH, Heo CY, Shim JH. Efficacy study of the new polycaprolactone thread compared with other commercialized threads in a murine model. Journal of Cosmetic Dermatology. 2021. doi:10.1111/jocd.13883
- 9日本美容外科学会 美容医療診療指針 CQ2-6(顔のシワ・タルミに対するスレッドリフト治療:一時的な改善が期待できるが効果が大きくなく持続期間が短いため十分な説明が必要。推奨度2、弱く推奨)
- 10Riopelle AM, Geisler AN, Eber AE, Dover JS. Update on Absorbable Facial Thread Lifts. Dermatologic Surgery. 2024. doi:10.1097/DSS.0000000000004521