PCLの糸、人での研究はどこまで進んだ?動物実験との距離

PCL(ポリカプロラクトン)の糸を人の顔で調べた研究はありますが、多くは比較の相手を置かない実臨床の観察で、PDOの糸と直接比べた試験は今回の文献では見つかりませんでした。「PDOより長くコラーゲンを作る」という根拠の中心は、ラットやマウスの実験です。

PCL(ポリカプロラクトン)の糸を人の顔で調べた研究はありますが、多くは比較の相手を置かない実臨床の観察で、PDOの糸と直接比べた試験は今回の文献では見つかりませんでした[1][2]。「PDOより長くコラーゲンを作る」という根拠の中心は、ラットやマウスの実験です[3][4]。人での期待値は、いまのところ「半年から1年ほどの一時的な改善」に置くのが文献に沿った読み方です[5]。

人で確かめた研究は、どんなもの?

施術直後の改善を記録した実臨床の研究が代表です。PLCL(PCLと乳酸の共重合体)の返し付き糸をインドの患者さんで調べた研究では、施術直後におよそ96%で改善が見られ、およそ71%が経過観察でさらに改善し、直後と比べて有意な改善があったと報告されています[1]。有害反応は、過去のPLCL糸の研究と同じ程度だったと書かれています[1]。

ただしこの研究は、ほかの糸や無治療と比べたものではありません[1]。溶ける糸のリフト全体を2018年10月から2022年12月の文献で調べた系統的レビューは、これまでの研究は長期の有効性データを示せていないと結論しています[2]。

動物実験は、何を示した?

PCLがコラーゲンをもっとも増やした、という結果です。紫外線で老化させたラット30匹を6群に分けた研究では、PDO、PLLA、PCLのどの糸も真皮のコラーゲン密度を若い個体に近づけ、なかでもPCLの活性が高いという結果でした[3]。同じ論文が紹介するマウスの研究では、PCLの糸はIII型コラーゲンを、PDOの糸はI型コラーゲンをより増やしたと記されています[3]。

マウスで新しいPCLの糸を市販の糸と比べた別の研究も、PCLはPDOやPLLAより長い期間コラーゲンを作らせると述べています[4]。ブタ5頭でPCLと乳酸の共重合体の糸を6か月追った実験では、ヒアルロン酸をコーティングした糸の方が多くの組織指標で上回りました[6]。

動物の結果は、人にそのまま当てはまる?

当てはめるには、距離があります。ラットの研究の著者自身が、糸が吸収されてから組織が作り替わるまでの長期の影響には、さらに研究が必要だと書いています[3]。ブタの研究の著者も、人での確認はこれからだと述べています[6]。

コラーゲンが増えることと、顔が引き上がって見えることも、同じではありません。顔のリフトでは、素材と部位でおよそ6〜12か月が効果の持ちの目安だと、111,948件の集計は述べています[5]。

PDOと直接比べた人の試験は、ある?

今回の文献では見つかりませんでした。3次元コグ付きPDO糸の前向き研究は、PLCLやポリプロピレンの糸との比較群を置いておらず、比較の有効性と持続を確かめるにはより大きな無作為化試験が必要だと述べています[7]。大規模な集計も、満足度や客観的な結果の指標は含んでいません[5]。

以前の系統的レビューは、糸リフトの効果が長く続くという科学的な証拠はないと結論し、決まった間隔での客観的な写真評価を二重盲検で行うべきだという提言を引いています[8]。この提言に応える研究は、PCLの糸についてまだ出ていません。

合併症のデータは、どうなっている?

糸の素材を問わず、型は共通しています。顔の糸リフトの合併症をまとめたメタ解析は、内出血や腫れなどの短期症状、皮膚のへこみや輪郭の乱れ、しびれなどの感覚の変化、感染や糸の露出、神経や耳下腺の損傷という5つの型を挙げています[9]。

PCL特有の大規模データは見つかりませんでしたが、手がかりはあります。中国では2018年にPCLと乳酸の糸が承認されましたが、医師の経験と技術の不足から比較的高い合併症率が観察されたと報告されています[10]。溶ける糸と若い年齢は合併症のリスクが低いことと関連していた、というレビューの記載もあります[11]。

期待値の置き方と、診察で確認すること

日本美容外科学会のガイドラインは、糸リフトを一時的な改善は期待できるが効果は大きくなく持続が短いものと位置づけ、推奨度2(弱く推奨)にしています[12]。PCLの糸も、この評価の中で考えるのが今は妥当です。

診察では、この糸で見込む期間の根拠が人の研究か動物実験かを聞き、自分のたるみの程度で何か月を見ておくかを医師と共有してください。研究が追いついていない分は、経過を見ながら決めていくことになります。

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