だれもが最初に気にするのは「入れた脂肪はどれだけ残るのか」です。答えには幅がありますが、幅そのものに意味があります。何が定着率を決めるのかが分かれば、術式選びの見方が変わります。
移植した脂肪は血流を得て初めて生き残るため、人工物より吸収が大きく、予測が難しいとされます[2]。教科書的な吸収率は25〜80%と幅広く[1]、この「幅の大きさ」こそが脂肪注入の本質です。定量データでは、Seth らの系統的レビュー(820乳房)が平均293ccの注入に対し1年後の残存を平均58.6%と報告しています[3]。半分強が残るのが一つの目安、と考えると現実に近くなります。
定着を左右する三つの因子
第一に体重変化です。Ørholt らの3年間・MRI による前向き研究では、長期の残存量が体重の増減に大きく左右されることが示されました[5]。術後に痩せれば入れた脂肪も減ります。第二に受け入れる側(レシピエント床)の血流です。Khouri らは、しぼんだ胸への変換例では残存が64%にとどまったのに対し、あらかじめ拡張してよく血の通った胸のほうが生着に適すると説明しています[6]。第三に注入量と受け皿の比です。同じ Ørholt らの研究では、受け皿に対する注入量の比を2:1まで上げても増大率の頭打ちが見られませんでした[5]。過矯正(多めに入れる)や Brava による前拡張が理にかなうのはこのためです。
数字を上げる工夫と、その限界
補助手技で残存率は上がります。Seth らのレビューでは、Brava 前拡張で64.1%、SVF 併用で66.5%、PRP 併用で71.8%、幹細胞(ADSC)併用で80.2%と報告されました[3]。ただし数字だけを見て選ぶのは危険です。幹細胞併用の有効性は Aesthetic Plastic Surgery 誌が有意な上乗せを報告する一方[3]、日本形成外科学会のガイドラインは「エビデンスの高い報告は得られていない」と明確に慎重で[4]、学会間で評価が割れています。合併症としては石灰化15.8%・脂肪壊死11.3%が報告されていますが、いずれも良性です[3]。第1話で触れたシリコンとの比較に戻ると、脂肪注入は、自分の組織である安心と引き換えに、吸収という不確実性を引き受ける選択です。どこまで補助手技を使うかは、期待値と根拠の強さを見比べて、診察で一緒に決めていきます。
- 1Neligan / Cummings (textbooks). Fat graft absorption 25–80%; less predictable than alloplasts.
- 2Largo RD, Tchang LAH, Mele V, et al. Efficacy, safety and complications of autologous fat grafting to healthy breast tissue: a systematic review. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2014. doi:10.1016/j.bjps.2013.11.011
- 3Seth AK, et al. Fat Grafting in Breast (820 breasts; retention 58.59%; Brava 64.06% / SVF 66.45% / PRP 71.80% / ADSC 80.20%). Plast Reconstr Surg. Vol.153.
- 4日本形成外科学会. 形成外科診療ガイドライン CQ28(自家脂肪注入・SVF). 2021.
- 5Ørholt M, Weltz TK, Hemmingsen MN, et al. Long-Term Volume Retention of Breast Augmentation with Fat Grafting (3-year MRI). Plast Reconstr Surg. 2025. doi:10.1097/prs.0000000000011841
- 6Khouri RK, et al. Megavolume Autologous Fat Transfer / Brava-assisted breast augmentation. Plast Reconstr Surg. Vol.133.