鼻翼基底部プロテーゼ(小鼻の付け根の骨のくぼみを埋める手術)は、中顔面のくぼみを埋める効果が症例をまとめた研究で報告されていますが、方法どうしを比べた質の高い研究はまだ少なく、効果の大きさと合併症の頻度には不確かさが残ります[1][2]。アジア人の鼻の手術では、鼻を高くするだけでは中顔面のくぼみが解決せず合併症も多いという背景から、鼻の手術に足す形で行われてきました[1]。
何が変わる?研究で測られた変化
変化は横顔で測ると数値で確かめられています。低い鼻と傍鼻のくぼみをあわせ持つ56人を、傍鼻の増量を行った群と行わなかった群に分けて比べた後ろ向き研究では、鼻柱の付け根の出っ張りと小鼻の付け根の出っ張りがどちらの群でも改善し、小鼻の付け根では増量した群のほうが2.5度上回りました[2]。満足度はFACE-Qという患者の質問票と、第三者の医師による改善度の評価で調べられています[2]。ただしこの研究は、細かく刻んだ自分の肋軟骨をトンネル状の通り道から入れる方法で、プロテーゼではありません[2]。
プロテーゼを使った報告では、2010年から2019年に中顔面のくぼみに対して鼻の手術と同時に傍鼻の増量を受けた67人(平均28.7歳)を後ろ向きに調べ、満足度は独立した医療スタッフが術前後の写真を見て評価しました[1]。著者らは、この方法が結果と満足度を改善しうる一方、手技の詳細と評価に絞った研究は限られていると述べています[1]。
エビデンスの質はどこまで?
今ある研究は、いずれも過去の症例をさかのぼって調べた後ろ向きのものです[1][2]。無作為に割り付けて比べた試験はなく、プロテーゼと自分の軟骨、脂肪注入を同じ条件で比べたデータもありません[1][2]。
顔のインプラント全般を調べた系統的レビューは、13研究620人を集め、69%が美容目的で、部位は下顎が46%、鼻が23%、材料は多孔性ポリエチレンが31%、シリコンが23%、PEEKが23%でした[3]。計測の方法が研究ごとにばらばらで比較が難しいことを指摘しつつ、感染と神経に関わる障害が合併症として報告されていたとまとめています[3]。このレビューに含まれた傍鼻の増量10人の研究では、頬骨を削った対照群と比べて、術後に小鼻の幅、小鼻の付け根の幅、鼻と上唇の角度が有意に大きく増えていました[3]。くぼみを埋めると、小鼻がやや広く見えることがあるわけです。
材料で何が違う?シリコン、ポリエチレン、自分の軟骨
材料ごとの数字は、鼻すじの手術のデータから間接的に読むしかありません。53研究のメタ分析では、自分の肋軟骨は修正手術で多く使われるため合併症率が全体で14%と高めで、多孔性ポリエチレン(Medpor)は合併症が少ない半面、問題が起きたときの二次手術が極めて難しいとされました[4]。見た目の良好率はシリコンの86%からMedporの97%まで幅がありました[4]。
教科書の見方も分かれています。アジア人は鼻の皮膚が厚く、それがインプラントに関わる有害事象の少なさと関係するとされ、シリコン、ePTFE、Medporのいずれでも多くの人が長く満足していると記されています[5][6]。一方でMedporについては、異物であることと骨組みの露出の危険が増すことが欠点に挙げられ、鼻中隔や動く鼻先では修正手術が多いことを理由に勧めない著者もいます[5][7]。自分の軟骨を細かく刻んで片側1.5ccずつ梨状孔(鼻の穴の骨の縁)の脇に入れ、傍鼻のくぼみを直す方法も教科書にあります[8]。
合併症はどれくらい?わかっていること、いないこと
傍鼻のプロテーゼに限った感染率や露出率、ずれの頻度は、今回集めた研究には出ていません[1][3]。顔のインプラント全般では感染と神経に関わる障害が報告されているので、しびれが出たときの対応については施設に聞いておく価値があります[3]。
厚みの目安になる報告はあります。小鼻を取りすぎて鼻の穴が縮んだ9人の修正で、多孔性ポリエチレンの傍鼻インプラントを平均5.5mm(4.0mmから7.0mm)の厚みで入れ、皮膚と軟骨の複合移植を組み合わせた研究では、18枚の移植片が全部または一部生着し、失敗はありませんでした[9]。これは修正手術の報告なので、初回の美容目的の数字とは分けて読んでください[9]。
誰に向く?期待値の置き方
向いているのは、鼻を高くするだけでは解決しない、中顔面のくぼみがはっきりある人です[1][2]。上顎の前側の発育が弱いことがアジア人に多く、低い鼻とくぼみが同時にあると顔全体の調和への影響が過小評価されやすいと研究は指摘しています[2]。くぼみが軽い人や、小鼻が広がって見えるのを避けたい人では、くぼみが埋まる利点と小鼻が広がる可能性を比べて決めることになります[3]。
診察で確認したいこと
1つ目は、くぼみの程度と原因が骨なのか軟部組織なのかです[2]。2つ目は、材料の選択とその理由、問題が起きたときの取り出しやすさです[4][7]。3つ目は、入れる厚みと位置です[9]。4つ目は、小鼻の幅や鼻と上唇の角度がどう変わるかです[3]。5つ目は、感染や露出、しびれが出たときの対応です[3][4]。
くぼみの深さ、皮膚の厚さ、上顎の形、同時に行う鼻の手術で設計は変わります。だから記事だけでは、自分に向く材料と厚みは決められません。診察では、横顔でのくぼみの程度、小鼻の付け根の位置、皮膚の厚さを確認し、どの材料をどれだけ入れるかを一緒に整理してもらってください。
- 1Zhao R, Pan B, Li D, An Y. Application of Paranasal Augmentation Rhinoplasty in Asians With Midfacial Concavity. Annals of Plastic Surgery. 2023. doi:10.1097/SAP.0000000000003428
- 2Lin G, Yihao X, Zhang X, You J, Wang H, Zheng R, Tian L, Guo J, Song Z, Fan F. Tunneled Paranasal Augmentation Using Diced Autologous Costal Cartilage in Asian Rhinoplasty: A Comparative Study. Facial Plastic Surgery. 2025. doi:10.1055/a-2296-3105
- 3Baecher H, Scheiflinger A, Remy K, Straub N, Maheta B, Sherwani K, Deniz C, Knoedler S, Safi AF, Kauke-Navarro M, Heiland M, Knoedler L. From Novel Facial Measurements to Facial Implantology: A Systematic Review. JPRAS Open. 2024. doi:10.1016/j.jpra.2024.10.005
- 4Liang X, Wang K, Malay S, Chung KC, Ma J. A Systematic Review and Meta-Analysis of Comparison Between Autologous Costal Cartilage and Alloplastic Materials in Rhinoplasty. Journal of Plastic, Reconstructive & Aesthetic Surgery. 2018. doi:10.1016/j.bjps.2018.03.017
- 5Suh MK. Atlas of Asian Rhinoplasty. 2018. Chapter 6-7: Dorsal Augmentation / Alloplastic Implants(アジア人は鼻の皮膚が厚く、インプラントに関わる有害事象が少ないことと関係する。著者は Medpor を、特に鼻中隔や動く鼻先では、アジア諸国で合併症の修正手術が多いことを理由に勧めていない)
- 6Structure Rhinoplasty. Vol. 2, pages 726-750(鼻の手術を受けるアジア人の多くは、シリコン、ePTFE、Medpor などの人工材料で生涯にわたり満足のいく結果を得ている)
- 7Cummings Otolaryngology, 7th ed. Vol. 3, Chapter 199, Surgical Planning, p.980-990(MEDPOR/Su-Por の欠点は、異物であること、骨組みの露出の危険が増すこと)
- 8Daniel RK. Rhinoplasty: An Atlas of Surgical Techniques. 2018. Dorsal modification / Other rib grafts(鼻を高くする際、細かく刻んだ軟骨を片側 1.5cc ずつ梨状孔の脇に入れて傍鼻のくぼみを直す。粗く刻んだ軟骨も梨状孔周囲の増量に使う)
- 9Yen CI, Chang CS, Chen HC, Yang SY, Chang SY, Yang JY, Chuang SS, Hsiao YC. Paranasal Augmentation With Composite Graft Transfer in Overresection of Alar Base and Nostril Contracture. Annals of Plastic Surgery. 2021. doi:10.1097/SAP.0000000000002485