鼻孔縁(小鼻のふち)を下ろす手術には、手術のやり方どうしを比べた試験がまだありません[1]。今わかっているのは、手術を受けた人の記録をまとめた報告と、教科書の記述までです。「どのくらい下がるのか」「何年もつのか」を数字で示した研究は、確認した資料の範囲では見つかりませんでした[1][2]。
直接の研究はどれだけある?
鼻翼縁の後退(小鼻のふちが上に引き上がった状態)そのものを対象にした論文として確認できたのは、「外側V-Y形成」という術式の報告が中心です[1]。これは一つの施設で一つのやり方を行った記録をまとめたもので、ほかのやり方と比べた試験ではありません[1]。教科書には、後退の程度によって結果が大きく変わると書かれています。ただし、程度ごとの成績を数字で示したものではありません[2]。
何が確かめられていて、何が未確認?
確かめられているのは、「どんな状態にはどの移植が必要か」という分類の整理です[2][3]。アジア人の鼻の手術では、鼻の内側を切った部分の組織が足りないことと、鼻翼縁の後退が重なりやすいと言われています。そのため、皮膚と軟骨をいっしょに移植する「複合組織移植」が必要になる頻度が高いと指摘されています[3]。一方で、「平均してどのくらい下がるのか」「満足度はどのくらいか」「何年後にどれだけ元に戻るのか」といった数字は、確認した資料の中にはありませんでした[1]。
再手術率の数字はどこまで当てはまる?
再手術の頻度としてよく引用されるのは、美容目的の鼻手術369例を追った調査で、9.8%(10人に1人ほど)という数字です[4]。ただしこれは鼻の手術全体の数字で、鼻翼縁の後退を直す手術に限った値ではありません[4]。だいたいの規模感をつかむ目安には使えますが、自分の再手術の確率としてそのまま読むのは行きすぎです[4]。
長期の経過はどこまで見えている?
長期の観察としては、口唇口蓋裂(生まれつき唇や口の中の天井が割れた状態)に伴う鼻の手術を15年間追った報告があります。そこでは、鼻柱(左右の鼻の穴の間の柱の部分)が長い、鼻孔が大きい、鼻先が広いといった変化が、時間とともに現れたと記されています[5]。対象が違うため、美容目的で鼻孔縁を下ろす手術にそのまま当てはめることはできません。ただ、鼻の形が年単位で変わっていくことを示す、数少ない長期のデータです[5]。「何年後にどう見えるのか」を知りたい場合、今のところ、この程度の間接的な材料しかありません[5]。
術後のケアに決まった基準はある?
術後に使う鼻孔レティナ(鼻の穴に入れて形を保つ器具)については、鼻の形などへの効果を確かめた研究が少なく、形や使用期間の明確な基準は示されていないと、ガイドライン(診療の指針)に明記されています[5]。装着を勧められた場合は、何のために使うのか、いつまで続けるのかを確かめておくと、納得して使えます[5]。術後のケアにも、まだ決まりきっていない部分が残っています。
この不確かさをどう受け止める?
研究が薄いことは、この手術に効果がないという意味ではありません。ただ、示された見通しがどこまで裏づけられた話なのかを聞く価値はあります[1][2]。術後の不満は、実際の合併症(手術後に起こる好ましくないトラブル)よりも、期待していた結果とのずれから生じることが多いと指摘されています[2]。「ここまでは研究で確かめられている話」「ここからは術者の経験に基づく見通し」という境目を、診察で分けて確認しておくと、判断の材料がそろいます。
- 1Lai LY, Hsu HC. The Single Application of External V-Y Plasty in Correcting Alar Retraction. J Cosmet Dermatol. 2025. doi:10.1111/jocd.70242
- 2Suh DH. Atlas of Asian Rhinoplasty. Springer, 2018(Retracted Ala/Contracted Short Nose/Secondary Rhinoplasty の各章).
- 3Structure Rhinoplasty. Vol.3(重度の鼻翼縁後退を伴う二次症例の再建).
- 4Neaman KC, Boettcher AK, Viet H, et al. Cosmetic Rhinoplasty: Revision Rates Revisited. Aesthet Surg J. 2013. doi:10.1177/1090820X12469221
- 5日本形成外科学会ほか. 形成外科診療ガイドライン 2021年版 第2巻(CQ17 McComb法の15年経過観察/CQ21 鼻孔レティナ/CQ80 鼻骨骨折後の鼻変形).